こころ - 石田彰.mp3
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[00:07.80]こころ[00:09.71]夏目漱石[00:12.37]「精神的に向上心のないものは、馬鹿だ」[00:17.20] [00:18.29]私は二度同じ言葉を繰り返しました。[00:22.55]そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見詰めていました。[00:28.25][00:29.37]「馬鹿だ」とやがてKが答えました。「僕は馬鹿だ」[00:39.51] [00:40.67]Kはぴたりとそこへ立ち留(ど)まったまま動きません。[00:44.24]彼は地面の上を見詰めています。[00:48.03]私は思わずぎょっとしました。[00:50.86]私にはKがその刹那に居直(いなお)り強盗のごとく感ぜられたのです。[00:57.24]しかしそれにしては彼の声がいかにも力に乏しいという事に気が付きました。[01:05.33]私は彼の眼遣(めづか)いを参考にしたかったのですが、彼は最後まで私の顔を見ないのです。[01:15.39]そうして、徐々(そろそろ)とまた歩き出しました。[01:19.85][01:21.02]私はKと並んで足を運ばせながら、彼の口を出る次の言葉を腹の中で暗(あん)に待ち受けました。[01:29.92]あるいは待ち伏せといった方がまだ適当かも知れません。[01:35.94]その時の私はたといKを騙(だま)し打ちにしても構わないくらいに思っていたのです。[01:43.37]しかし私にも教育相当の良心はありますから、もし誰か私の傍(そば)へ来て、[01:51.93]お前は卑怯(ひきょう)だと一言(ひとこと)私語(ささや)いてくれるものがあったなら、[01:56.55]私はその瞬間に、はっと我に立ち帰ったかも知れません。[02:02.32]もしKがその人であったなら、私はおそらく彼の前に赤面したでしょう。[02:10.10]ただKは私を窘(たしな)めるには余りに正直でした。余りに単純でした。[02:19.03]余りに人格が善良だったのです。[02:23.31]目のくらんだ私は、そこに敬意を払う事を忘れて、かえってそこに付け込んだのです。[02:32.43]そこを利用して彼を打ち倒そうとしたのです。
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